人間・小沢一郎「最後の大構想 」
2012年1月5日 お仕事人間・小沢一郎「最後の大構想 」
小沢一郎 冷温停止宣言に「永久に水かけ続けるのか」と疑問
週刊ポスト2012年1月1・6日号 http://bit.ly/tNHm0e
大津波と原発禍で崩壊していく民主主義国家を前にして、この男は何を思い、どう動くのか
小沢一郎――この稀有で頑固な政治家の「人間」を解剖することは日本の政治の形、国家の形がどう変わらなければならないかを探るケーススタディといえるかもしれない。天の怒りに地の喜びが打ち砕かれた2011年3月11日。政治は荒れた大地に陽炎のごとく輪郭を浮かべ、無為に時を重ねた。多くの国民は「動かない小沢」に焦れた。小沢封じの政治の病巣は現実と醜悪な乖離を見せ付けた。何をしていたのかという挑みの問いに、小沢が「人の顔」で激しく語った。
●レポート/渡辺乾介(政治ジャーナリスト)
* * *
今の政治的には原発という大問題があります。
日本の再建だ、東北の再建だといっていますけれども、放射能封じ込めに成功しないと日本経済の再建も日本の将来もない。福島第一原発の事故はマスコミでは喉元過ぎればで、何だか風化したみたいになっていますけれども、日本人的な現象で非常に危険だと思います。
この放射能については、何としても完全に封じ込めないといけない。そのためには、どれだけお金を使ってもやむを得ないし、封じ込めの体制の先頭に立つのは国だ、ということを僕は言い続けてきたんです。事故の現状は、東京電力が第一義的に責任者だからといって、東電にやらせていいという状況を超えている。国が自ら先頭に立って、主体的にやらなくちゃいけない。
原発による被災者の皆さんの生活の問題と同時に、放射能をいかにして封じ込めるか。水をかけて「冷温停止状態を達成した」なんていったって、永久に水をかけ続けるのか? 今になって、核燃料が圧力容器からメルトスルーして、もうすぐ格納容器の底のコンクリートを抜けるかもしれないなんて、呑気なことをいっているわけですね。
震災の2、3日後には、熱工学の学者をはじめ客観的に事実を見ている人たちは、必ず炉心は壊れているといっていた。燃料も必ずメルトダウンしているとわかっていたわけですよ。それにもかかわらず、政府は2か月後にようやくメルトダウンを発表して、そして最近になって落ちたウラン燃料がコンクリートを侵食して、底を突き破るまであと30何センチだなんていっているわけです。あれ、突き抜けて土の中に入っちゃったら、汚染の拡大を止められなくなりますからね。
それをまず徹底的に封じ込めないといけない。それは国家、政府が先頭に立ってやるべきことです。
小沢一郎氏「福島県民は霞ヶ関取り巻くデモ起こしてもいい」
http://bit.ly/vm54i8
いまだに東日本大震災と原発事故を前に立ちすくむ日本の政治。なぜ日本の政治はこうも無力になってしまったのか。政治ジャーナリスト渡辺乾介氏(『小沢一郎 嫌われる伝説』著者)が政府と国民の関係について小沢一郎・元民主党代表に問う。
* * *
――被災地の人たちが、苦悩、苦難、困難を抱えながらも自分たちの手で何かやらねばならないという、この大衆のエネルギーを政治が酌み取ろうとしないところが実に悲しく虚しい。
小沢:今回、一般の人たちがお互いに連帯していろいろな救助活動や復興活動に立ち上がった。これは日本人のとてもいいところで、みんなが感動した点だと思う。
一方、地方はいちいち中央の霞が関の許可をもらったりするのが面倒くさくてしようがないと思っているけれども、それが政治的な運動にならない。そこが日本社会が他の国から遅れているところですね。大きな変革を起こせない理由でもある。本来ならば、特に福島県の人たちなんか、全県民が上京して、霞が関を取り巻くぐらいのムシロ旗デモを起こしてもよさそうなのに日本はそうならないんだね。
――外国なら暴動が起きても不思議はない。
小沢:政治に何をしてほしいんだというものは必ずあるはずです。それが政治の変革を求める運動に繋がっていかないのが、日本社会の最大の問題だね。
小沢一郎氏 若者がネットを使い行動することに希望を見出す
http://bit.ly/t1J9ie
* * *
――あなたが唱えてきた「自立と共生」の視点から、これだけ病み、傷んだ国土、国民、国家の震災後の在り方を語る時に、どういう再生の方向性があるのか。それは国民があなたに注目する大きな一つの視点だ。
小沢:日本には、市民の力によって政治体制を変えた歴史がほとんどないですから、自ら政治を動かそうという発想がなかなか国民の間に生まれてこない。
ただ、インターネットの広がりとともに、政治に無関心であったといわれている若い人たちがかなり関心を持ち始めて、そして実際に行動するようになったんじゃないだろうかと思う。原発の問題もそうだけれど、年金の問題でも、掛け金(保険料)を払ったって年金をもらえるのかという先行き不安が現実に出ている。いずれも結局は政治の場で解決する以外にないわけだから、だんだん政治に対する見方が変わってきているんじゃないかという気がします。
民主主義社会では、上からの革命というわけにいかない。国民が支持し、国民が支援してくれなきゃ改革はできない。今はほとんどの人がインターネットで情報を共有できるので、普通の人、特に若い人が行動するようになってきたことに、僕は希望を見出します。
――今の答えの中にあったが、年金と消費税がセットで国民生活を闇の中に押し込めようとしている。「国民の生活が第一。」という政権交代の理念と基本政策を、民主党は冷凍保存しようとしているのではないか。
小沢:僕が代表の時に掲げた言葉だから、嫌なんでしょう(笑い)。
小沢一郎氏 2012年は最後のご奉公、文字通り「最後」と語る
http://bit.ly/uxcgS2
* * *
――民主党がアンシャン・レジームになってしまった。
小沢:(苦笑しながら)そうなんだよね……。
――その民主党をどうやって、もう一度ぶち壊すのか。
小沢:僕は現時点においては、野田(佳彦首相)さんが初心に返り、政権交代の原点に思いをはせて、そしてぜひ「国民の生活が第一。」の政策に戻ってほしいと、ひたすらに望んでいます。そうしなきゃ、民主党政権に明日がない。必ず国民から見放される。
――すでに、今日もない。
小沢:ん…? 今日もないけれども(苦笑)。
――次の総選挙で「今度こそやります」と訴えたからって、国民は民主党を……。
小沢:それは信用しない。
――政策を担保する何か、あるいは覚悟が本気だと思ってもらうための新たな努力が必要ではないか。
小沢:さっきいったように、僕は野田さんがまず、「国民の生活が第一。」の理念に基づいて、しっかりしたビジョンを語るべきだと思う。それが全くないまま、ただ増税だけを推進しているとなると、民主党政権は滅びる。かといって自民党政権に戻ることもない。日本はぐちゃぐちゃのカオスの状況に入ってしまう。
――国外に目を転じると、北朝鮮では金正日・総書記が死亡し、東アジア情勢も流動的になってきた。
小沢:突然のことで大変驚きました。核開発の問題もありますので、日中韓をはじめ関係各国が緊密に連携して、不測の事態に対処しうる体制を早急に構築することが肝心だと思います。
――選挙まで残り任期は少ない。今の政権が原点に戻らない場合、あなた自身はどういう覚悟を決めるのか。
小沢:その時は、ほかの手段を考えなきゃならない。
――その手段とは。
小沢:今、具体的にどうこうというわけにいかないけれども、今の政権がどうしても(原点回帰は)だめだといったら、僕も国民を裏切ることになってしまう。それは困るし、それによる日本の大混乱も防がなきゃならない。何らかの方法を考えなければならない。
――そのカオスを突き抜けるところで、あなたにとって2012年は相当過酷な年になる。
小沢:最後のご奉公です。文字どおり「最後」です。
小沢一郎氏 TPPで米の狙いは農業ではなく郵貯、医療分野
http://www.news-postseven.com/archives/20120104_78636.html
* * *
――TPP参加論者たちは、小沢さんはもともと市場開放論者だったじゃないかという物言いをする。
小沢:そう。僕は開放論者ですよ。
――かつてのウルグアイ・ラウンド(※1)の時も、いち早く開放して有利な交渉権を獲得しようとした。
小沢:僕はそう主張した。だけど、日本政府はそれをいえなかったわけだ。あの時は自民党内で話が全部でき上がっていた後だから、そこから動かす余地はあまりなかったんだけれど、僕は自由貿易に原則賛成したうえで交渉すればいいという意見だった。今だって政府に交渉能力があるんだったら何も心配ないです。
――しかし……。
小沢:ないから心配になる。
――アメリカの言いなりになると、どういう問題が考えられるか。
小沢:協定書に載っているとおりですよ。23分野(※2)かな。でも、実はマスコミが一番騒いでいる農業なんて、アメリカにとっては大したことではないんですよ。
――それでアメリカが儲かるなんてことはない。
小沢:日本の農林水産業の年間総生産高は13兆円です。だから、金額だけでいえば大したことではない。ただし、それに関わっている日本の農家は直接的な打撃を受ける。その対策は十分に講じなければならない。
でも、アメリカの狙いはそれじゃないんです。案の定、アメリカは挙げてきたでしょう。郵貯とか医療とかですよ。アメリカは自分の都合のいいところの規制撤廃を求めてくる。すでにその国の市場に入り込んでいる分野は黙っている。
――実際、牛肉などはオーストラリアのほうがアメリカより全然安い。
小沢:日本の牛肉だってちゃんと売れている。今は放射能問題があったりするけれど、アメリカ産とは肉の質が違うからね。市場開放に備えるためにも、国内対策として農業戸別所得補償の創設をマニフェストに入れた。その対策をきちんとやれば、農業はやっていけるんです。けれども、ノーガードでTPPに参加したら、もろに生産者にしわ寄せが行く。
――先を見据えて農業戸別所得補償制度も考えて政権政策の基本にしたのに、それを棚上げした。TPP参加の手順が何もない。
小沢:何を考えているんだか、わからないですね。
※1/1986~95年にかけて行なわれた農産物、サービス貿易分野を中心とする多国間貿易交渉。自民党政権から交渉を引き継いだ細川政権は1993年、コメに高い関税をかける代わりに一定量を輸入する部分開放を決断。国内農業対策として10年間で6兆100億円の対策費が支出された。
※2/TPP協定の交渉には農業、金融、電気通信、政府調達、環境など23分野の作業部会が設けられている(首席交渉官会議を含めると24部会。21分野とする数え方もある)。
小沢一郎 冷温停止宣言に「永久に水かけ続けるのか」と疑問
週刊ポスト2012年1月1・6日号 http://bit.ly/tNHm0e
大津波と原発禍で崩壊していく民主主義国家を前にして、この男は何を思い、どう動くのか
小沢一郎――この稀有で頑固な政治家の「人間」を解剖することは日本の政治の形、国家の形がどう変わらなければならないかを探るケーススタディといえるかもしれない。天の怒りに地の喜びが打ち砕かれた2011年3月11日。政治は荒れた大地に陽炎のごとく輪郭を浮かべ、無為に時を重ねた。多くの国民は「動かない小沢」に焦れた。小沢封じの政治の病巣は現実と醜悪な乖離を見せ付けた。何をしていたのかという挑みの問いに、小沢が「人の顔」で激しく語った。
●レポート/渡辺乾介(政治ジャーナリスト)
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今の政治的には原発という大問題があります。
日本の再建だ、東北の再建だといっていますけれども、放射能封じ込めに成功しないと日本経済の再建も日本の将来もない。福島第一原発の事故はマスコミでは喉元過ぎればで、何だか風化したみたいになっていますけれども、日本人的な現象で非常に危険だと思います。
この放射能については、何としても完全に封じ込めないといけない。そのためには、どれだけお金を使ってもやむを得ないし、封じ込めの体制の先頭に立つのは国だ、ということを僕は言い続けてきたんです。事故の現状は、東京電力が第一義的に責任者だからといって、東電にやらせていいという状況を超えている。国が自ら先頭に立って、主体的にやらなくちゃいけない。
原発による被災者の皆さんの生活の問題と同時に、放射能をいかにして封じ込めるか。水をかけて「冷温停止状態を達成した」なんていったって、永久に水をかけ続けるのか? 今になって、核燃料が圧力容器からメルトスルーして、もうすぐ格納容器の底のコンクリートを抜けるかもしれないなんて、呑気なことをいっているわけですね。
震災の2、3日後には、熱工学の学者をはじめ客観的に事実を見ている人たちは、必ず炉心は壊れているといっていた。燃料も必ずメルトダウンしているとわかっていたわけですよ。それにもかかわらず、政府は2か月後にようやくメルトダウンを発表して、そして最近になって落ちたウラン燃料がコンクリートを侵食して、底を突き破るまであと30何センチだなんていっているわけです。あれ、突き抜けて土の中に入っちゃったら、汚染の拡大を止められなくなりますからね。
それをまず徹底的に封じ込めないといけない。それは国家、政府が先頭に立ってやるべきことです。
小沢一郎氏「福島県民は霞ヶ関取り巻くデモ起こしてもいい」
http://bit.ly/vm54i8
いまだに東日本大震災と原発事故を前に立ちすくむ日本の政治。なぜ日本の政治はこうも無力になってしまったのか。政治ジャーナリスト渡辺乾介氏(『小沢一郎 嫌われる伝説』著者)が政府と国民の関係について小沢一郎・元民主党代表に問う。
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――被災地の人たちが、苦悩、苦難、困難を抱えながらも自分たちの手で何かやらねばならないという、この大衆のエネルギーを政治が酌み取ろうとしないところが実に悲しく虚しい。
小沢:今回、一般の人たちがお互いに連帯していろいろな救助活動や復興活動に立ち上がった。これは日本人のとてもいいところで、みんなが感動した点だと思う。
一方、地方はいちいち中央の霞が関の許可をもらったりするのが面倒くさくてしようがないと思っているけれども、それが政治的な運動にならない。そこが日本社会が他の国から遅れているところですね。大きな変革を起こせない理由でもある。本来ならば、特に福島県の人たちなんか、全県民が上京して、霞が関を取り巻くぐらいのムシロ旗デモを起こしてもよさそうなのに日本はそうならないんだね。
――外国なら暴動が起きても不思議はない。
小沢:政治に何をしてほしいんだというものは必ずあるはずです。それが政治の変革を求める運動に繋がっていかないのが、日本社会の最大の問題だね。
小沢一郎氏 若者がネットを使い行動することに希望を見出す
http://bit.ly/t1J9ie
* * *
――あなたが唱えてきた「自立と共生」の視点から、これだけ病み、傷んだ国土、国民、国家の震災後の在り方を語る時に、どういう再生の方向性があるのか。それは国民があなたに注目する大きな一つの視点だ。
小沢:日本には、市民の力によって政治体制を変えた歴史がほとんどないですから、自ら政治を動かそうという発想がなかなか国民の間に生まれてこない。
ただ、インターネットの広がりとともに、政治に無関心であったといわれている若い人たちがかなり関心を持ち始めて、そして実際に行動するようになったんじゃないだろうかと思う。原発の問題もそうだけれど、年金の問題でも、掛け金(保険料)を払ったって年金をもらえるのかという先行き不安が現実に出ている。いずれも結局は政治の場で解決する以外にないわけだから、だんだん政治に対する見方が変わってきているんじゃないかという気がします。
民主主義社会では、上からの革命というわけにいかない。国民が支持し、国民が支援してくれなきゃ改革はできない。今はほとんどの人がインターネットで情報を共有できるので、普通の人、特に若い人が行動するようになってきたことに、僕は希望を見出します。
――今の答えの中にあったが、年金と消費税がセットで国民生活を闇の中に押し込めようとしている。「国民の生活が第一。」という政権交代の理念と基本政策を、民主党は冷凍保存しようとしているのではないか。
小沢:僕が代表の時に掲げた言葉だから、嫌なんでしょう(笑い)。
小沢一郎氏 2012年は最後のご奉公、文字通り「最後」と語る
http://bit.ly/uxcgS2
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――民主党がアンシャン・レジームになってしまった。
小沢:(苦笑しながら)そうなんだよね……。
――その民主党をどうやって、もう一度ぶち壊すのか。
小沢:僕は現時点においては、野田(佳彦首相)さんが初心に返り、政権交代の原点に思いをはせて、そしてぜひ「国民の生活が第一。」の政策に戻ってほしいと、ひたすらに望んでいます。そうしなきゃ、民主党政権に明日がない。必ず国民から見放される。
――すでに、今日もない。
小沢:ん…? 今日もないけれども(苦笑)。
――次の総選挙で「今度こそやります」と訴えたからって、国民は民主党を……。
小沢:それは信用しない。
――政策を担保する何か、あるいは覚悟が本気だと思ってもらうための新たな努力が必要ではないか。
小沢:さっきいったように、僕は野田さんがまず、「国民の生活が第一。」の理念に基づいて、しっかりしたビジョンを語るべきだと思う。それが全くないまま、ただ増税だけを推進しているとなると、民主党政権は滅びる。かといって自民党政権に戻ることもない。日本はぐちゃぐちゃのカオスの状況に入ってしまう。
――国外に目を転じると、北朝鮮では金正日・総書記が死亡し、東アジア情勢も流動的になってきた。
小沢:突然のことで大変驚きました。核開発の問題もありますので、日中韓をはじめ関係各国が緊密に連携して、不測の事態に対処しうる体制を早急に構築することが肝心だと思います。
――選挙まで残り任期は少ない。今の政権が原点に戻らない場合、あなた自身はどういう覚悟を決めるのか。
小沢:その時は、ほかの手段を考えなきゃならない。
――その手段とは。
小沢:今、具体的にどうこうというわけにいかないけれども、今の政権がどうしても(原点回帰は)だめだといったら、僕も国民を裏切ることになってしまう。それは困るし、それによる日本の大混乱も防がなきゃならない。何らかの方法を考えなければならない。
――そのカオスを突き抜けるところで、あなたにとって2012年は相当過酷な年になる。
小沢:最後のご奉公です。文字どおり「最後」です。
小沢一郎氏 TPPで米の狙いは農業ではなく郵貯、医療分野
http://www.news-postseven.com/archives/20120104_78636.html
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――TPP参加論者たちは、小沢さんはもともと市場開放論者だったじゃないかという物言いをする。
小沢:そう。僕は開放論者ですよ。
――かつてのウルグアイ・ラウンド(※1)の時も、いち早く開放して有利な交渉権を獲得しようとした。
小沢:僕はそう主張した。だけど、日本政府はそれをいえなかったわけだ。あの時は自民党内で話が全部でき上がっていた後だから、そこから動かす余地はあまりなかったんだけれど、僕は自由貿易に原則賛成したうえで交渉すればいいという意見だった。今だって政府に交渉能力があるんだったら何も心配ないです。
――しかし……。
小沢:ないから心配になる。
――アメリカの言いなりになると、どういう問題が考えられるか。
小沢:協定書に載っているとおりですよ。23分野(※2)かな。でも、実はマスコミが一番騒いでいる農業なんて、アメリカにとっては大したことではないんですよ。
――それでアメリカが儲かるなんてことはない。
小沢:日本の農林水産業の年間総生産高は13兆円です。だから、金額だけでいえば大したことではない。ただし、それに関わっている日本の農家は直接的な打撃を受ける。その対策は十分に講じなければならない。
でも、アメリカの狙いはそれじゃないんです。案の定、アメリカは挙げてきたでしょう。郵貯とか医療とかですよ。アメリカは自分の都合のいいところの規制撤廃を求めてくる。すでにその国の市場に入り込んでいる分野は黙っている。
――実際、牛肉などはオーストラリアのほうがアメリカより全然安い。
小沢:日本の牛肉だってちゃんと売れている。今は放射能問題があったりするけれど、アメリカ産とは肉の質が違うからね。市場開放に備えるためにも、国内対策として農業戸別所得補償の創設をマニフェストに入れた。その対策をきちんとやれば、農業はやっていけるんです。けれども、ノーガードでTPPに参加したら、もろに生産者にしわ寄せが行く。
――先を見据えて農業戸別所得補償制度も考えて政権政策の基本にしたのに、それを棚上げした。TPP参加の手順が何もない。
小沢:何を考えているんだか、わからないですね。
※1/1986~95年にかけて行なわれた農産物、サービス貿易分野を中心とする多国間貿易交渉。自民党政権から交渉を引き継いだ細川政権は1993年、コメに高い関税をかける代わりに一定量を輸入する部分開放を決断。国内農業対策として10年間で6兆100億円の対策費が支出された。
※2/TPP協定の交渉には農業、金融、電気通信、政府調達、環境など23分野の作業部会が設けられている(首席交渉官会議を含めると24部会。21分野とする数え方もある)。
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